【書評・要約】ハンス・ロスリング『FACT FULNESS』を丁寧に要約してみた。②
目次
本書の内容
6 パターン化本能
我々は「一つの例がすべてに当てはまる」という思い込みを生んでしまう。
良くも悪くも人間は何も考えず物事をパターン化し、それを全てに当てはめてしまう傾向がある。生きていく上で、パターン化は欠かすことができないものである一方で、危険な要素もはらんでいる。
この「パターン化」は、メディアの十八番でもある。この思い込みは「あの人たち」はみな同じだ、という勘違いを生む。
質問9
世界中の1歳児の中で、何らかの病気に対して予防接種を受けている子どもはどのくらいいるでしょうか?
A 20%
B 50%
C 80%
(答えはC)
重要なのは、間違った分類に気づき、より適切な分類に置き換えること。「先進国」と「途上国」という分類を「4つのレベル」に置き換えたように。
まとめ
・同じ集団の中にある違いを探す。
・違う集団のあいだの共通項を探す。
・違う集団のあいだの違いも探す。
・自分以外はアホだと決めつけないようにする。
7 宿命本能
生まれ持った宿命によって、人や国や宗教や文化の行方は決まるという思い込み。
誰しも「自分はそういうさだめなんだ」と正当化したことはないだろうか?
進化の過程では、同じ環境に慣れそれがそのまま続くと考えることで「生存」に役立った。
質問10
世界中の30歳男性は、平均10年間の学校教育を受けています。同じ年の女性は何年間学校教育を受けているでしょう?
A 9年
B 6年
C 3年
(答えはA)
我々の脳は「岩は動かない」と思い込む傾向がある。
アフリカ諸国への認識はどのようだろうか。アフリカはこれからも貧しいままだし、それがアフリカの宿命なのだという意見はよく聞く。
サハラ以南のアフリカ諸国はこの60年の間に、植民地がから独立国家になった。そしてその過程はヨーロッパ諸国がかつて奇跡の発展を遂げたのと同じ着実なスピードで、教育、電力、水道、衛生設備を拡充してきた。アフリカ諸国がいまでも極度の貧困にあるのは、変わらない文化のせいではなく、痩せた土地と紛争のせいである。
かつては中国もバングラデシュもベトナムも、経済発展などあり得ないと思われていた。今ではあなたのタンスの中の洋服のほとんどはこれらの国でつくられている。
宿命本能のせいで、アフリカが西洋に追い付けることを、人はなかなか受け入れられない。
いま、自称「自由なメディア」が世界で最も急激な文化的変化を報道していない。
私たちの脳に、岩が動くことをわからせるには
ゆっくりとした変化でも変わっていないわけではないことを知る。知識に賞味期限がないと思えば、安心できるが、最新のデータを積極的に取り入れ、知識を新鮮に保つように心がける。
結論
・「小さな進歩」を追いかける。
・知識をアップデートする。
・文化が変わった事例を集める。
8章 単純化本能
我々は、シンプルなものの見方に惹かれる。
わかった!理解できた!という手応えを得られるからだ。しかし、残念ながら世界はそう単純なものではない。
例えば、自由市場。シンプルで美しい概念に思えるが、これだけを信じ込むと、全ての問題の元凶は「政府の介入」にある、と考えてしまう。
「平等」というシンプルで美しい概念もまた、「格差」があらゆる問題の元凶だという単純な考え方に繋がる。こうなるとなにがなんでも「富の再分配」によって何でも解決できると思い込んでしまう。
このように一つの切り口で世界を見れば、悩むこともなく、時間の節約になる。
重要なのは、自分が肩入れしている考え方の弱みをいつも探したほうがいいということ。
この世には一つの道を突き詰めている「その道のプロ」が存在する。専門家がいなければ世界を理解することはできない。とはいえ限界もあり、その道のプロは自分の専門分野以外のことはプロではない。
質問11
1996年には、トラとジャイアントパンダとクロサイはいずれも絶滅危惧種として指定されていました。この3つのうち、当時よりも絶滅の危機に瀕している動物はいくつでしょう?
A 2つ
B 1つ
C ゼロ
(答えはC)
いずれの種も野生の数は、この数年で増えている。多方面の活動家が訴えてきたからこそ、人々の意識が高まったのは事実である。一方で、一つの見方に固執せず、進歩を認めていればさらに多くのことが成し遂げられたはずだ。
もう一つ重要なのは「数字だけが全てではない」ということだ。
メーデーという労働者の祭典がある。その目的は地域よって異なるが、旧東側諸国などでは労働者が統一して権利要求をする日となっている。モザンビークの元首相は、経済統計だけみても当てにならないとして、毎年メーデーで市民の足元を見てどんな靴をはいているのか観察する。これを前年度と比較するという。
数字が無ければ世界は理解できない。でも、数字だけでは世界はわからない。
貧乏人の中でいちばん健康キューバと、金持ちの中でいちばん不健康なアメリカという議論もある。
民主主義だけで、全てを解決できるか?
国家を運営する手法として自由な民主主義がいちばん優れていると心から信じている。ただ、民主主義でなければ、恩恵を受けられないという考え方は間違っている。
急激な経済発展と社会的進歩を遂げた国のほとんどは、民主主義ではない。韓国は(原産国以外で)世界のどの国よりも急速にレベル1からレベル3に進歩したが、ずっと軍の独裁政治が続いていた。2012年から2016年の間に経済が急拡大した10カ国のうち、9カ国は民主主義のレベルがかなり低い。現実ははるかに「複雑」なのだ。
どちらか一方が正しくて、もう一方が必ず間違っているわけではない。どちらもいいし、ケースバイケースなのだ。
まとめ
・一つの視点だけでは世界を理解することはできない。
・考える際には、一つのトンカチではなく、様々な道具の入った工具箱を準備する。
・自分の考え方を検証する。
・単純なものの見方と答えには警戒する。
9章 犯人探し本能
悪いことが起きたとき、単純明快な理由を見つけたくなる。
例えば、ホテルでシャワーの温度を上げようとして、ハンドルを回した。するとすぐに熱湯が出てきてやけどをしそうになった。誰が悪い?配管工か、ホテルの支配人か、いや誰も悪くない。
「悪者は誰だ?」
ものごとが上手く行かないと誰かがわざと悪いことを仕組んだように思いがちだ。我々はこの「犯人探し本能」のせいで、個人や集団が実際より影響力があると勘違いしてしまう。
この本能にはその人の好みが表れ、自分の思い込みに合う悪者を探そうとする。
世の中でいちばん悪者扱いされやすいのはビジネスマン、ジャーナリスト、ガイジンだ。
ものごとが上手く行かないときには、「犯人を探すより、システムを見直したほうがいい」。
ものごとが上手く行ったときには、「社会基盤とテクノロジーの2種類のシステムのおかげだ」と思う。
質問12
いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?
A 20%
B 50%
C 80%
(答えはC)
世界では、ひとつ、またひとつと家に明かりが灯っている。
最も貧しい人たちがかかりやすい病気が研究されないことについて、責めるべきはCEOでも株主でもない。責めたくなっても、ひとりの人や、ひとつのグループだけ責めないようにしよう。なぜなら、犯人を見つけた途端、考えるのをやめてしまうからだ。
まとめ
・犯人とされ、責められていることに気づくこと。
・犯人ではなく、原因を探すこと。
・社会を機能させている仕組みに目をむけよう。
10 焦り本能
いますぐやろう!明日じゃ遅すぎる!
いますぐ決めろと急かされると、批判的に考える力が失われ、拙速に判断し行動してしまう。
目の前に危機が迫っていると感じると、「焦り本能」のせいですぐに動きたくなる。遠い昔はこの本能が人間たちを守ってくれた。
質問13
グローバルな気候の専門家は、これからの100年で、地球の平均気温はどうなると考えているでしょう?
A 暖かくなる
B 変わらない
C 寒くなる
(答えはA)
この質問だけは、どこでも正解率がチンパンジーよりも高い(日本では76%)。
精彩な衛星写真をみると、恐ろしいほどのスピードで氷河が年々減っていることがはっきりわかる。
どうしたら温暖化を止められる?
それは温室効果ガスを大量に排出している人が今すぐやめればいい。しかし、深刻だからといって根拠の薄い最悪のシナリオと終末の予言などを振りかざしてはいけない。
今すぐ行動を!という訴えには、データを改善することから始める。
焦り本能は、世界の見方を歪めてしまう最悪の本能の一つだ。ドラマチック過ぎる世界が頭に広がると、必ず危機感やプレッシャーを感じ、ストレスに繋がったり、逆に無関心に繋がってしまう。
早急に取り組むべき5大グローバルリスクがある。グローバルな危機が目の前にあることは間違いない。新たなリスクには常に興味を持ち、警戒を怠らない方が良い。
① 感染症の世界的な大流行
第一次世界大戦中のスペインかぜの死亡者数は、約5000万人。感染症の専門家の間では今も、新種のインフルエンザが最大の脅威であるという共通認識になっている。
② 金融危機
グローバル化した社会では金融バブルがはじけると悲劇が起こる。世界で最も優秀な経済学者でさえ、先の金融危機を予測できず、その後の回復についても予測を外している。
③ 第三次世界大戦
世界が平和でなければ、「持続可能な開発目標(SDGs)」もただの絵に書いた餅となる。国境を超えて人々が出会う機会をもっとたくさんあるといい。
④ 地球温暖化
大気のような地球の共有資源を管理するには、世界に尊重される統治機構が必要だ。オゾン層破壊物質と有鉛ガソリンをこの20年でほぼ完全に廃止できたのだから、不可能ではない。豊かな国が率先して、二酸化炭素排出量を減らすべきだ。
⑤ 極度の貧困
これは目の前の現実だ。貧困地域の若者は、喉から手が出るほど食べ物と仕事を欲しがり、失うものはなにもない。必要なのは、「平和、学校教育、基本的な医療制度、電気、清潔な水、トイレ、避妊具、市場経済に参加するための小口信用(マイクロクレジット)」だ。レベル1にいる10億人が、人間らしく暮らすための必需品を届けることに、今すぐ力を注ぐべきだ。
ドラマチック過ぎる世界で、現実離れした問題に頭を悩ませる必要はない。本物の問題に注目し、どうしたら解決できるかを考えよう。
まとめ
・自分の焦りに気づく。
・「小さな一歩」を重ねる。
・過激な対策に気をつける。
・ドラマチックな対策よりも、たいていは地道な一歩に効果がある。
11 ファクトフルネス実践
変わりゆく世界の基本的な最新知識を、学校や企業研修で教える。
ファクトフルネスは批判的思考の一つであり、これが次世代を知識不足から守ることになる。
なによりも、子どもたちに「謙虚さ」と「好奇心」を教えよう。
学校を出て10年20年すれば、時代遅れになるため、大人の知識をアップデートする方法も見つける必要がある。
最後にひとこと
事実に基づいて世界を見ると、心が穏やかになる。ドラマチックに世界を見るよりも、ストレスが少ないし、気分も少しは軽くなる。
事実に基づいて世界を見れば、世の中もそれほど悪くないと思えてくる。これからも世界を良くし続けるために私たちに何ができるかも、そこから見えてくるはずだ。
要約後の考察
本書は、世界は社会が思うほど悪くない。むしろ、良くなっていることのほうが多い。しかし悪い方に目をむけ関心を寄せてしまうのは、人間の本能によるものだ、ということが述べられている。
この本能から、開放されるには、データに基づいて事実を知ることであると語る。
著者は楽観主義者ではなく「可能主義者」として、これからの世界は良くなる、そのために事実に基づき、地球市民一人ひとりが地道な一歩を重ねて行くべきだ、としている。
1 人間は本能によって、物事をドラマチックに考えやすい。
2 この世界はその本能を利用するコンテンツが溢れている。
3 事実に基づいた世界を見ることで、より良く行動できる。
我々は、常に知識をアップデートし、事実に基づく世界を見て生きていく必要がある。
Thank you.