【書評・要約】ハンス・ロスリング『FACT FULNESS』を丁寧に要約してみた。①

 

はじめに

Q.世界は悪い方向に向かっている。イエスかノーか。

あなたはどう思いますか?

本書は人間が持つ10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣をつけることが目的となっており、未来を生きる我々の必読書であると言える。

 

本書の内容

テーマは「我々が見ている世界は歪められているかもしれない」ということ。

 

結論

本書は、結論だけ述べると大きな誤解を招く可能性があるため、1章ずつ丁寧に読み、自らの目と思考に基づいて判断することが望ましい。

ただ、断言できるのは、本書を読めば、あなたがこの世界に希望と可能性を感じ、世界を良くするための一員になれるということだ。

 

 

人間が持つ10の本能

1 分断本能

我々は世界の国々見るとき、各国をどのように判断するだろう?

最もわかりやすく感じるのが「先進国」と「途上国」という枠組みではないだろうか。

つまり「豊かな国」「貧しい国」という分け方だ。

しかし、世界はこんなにシンプルなのだろうか?

 

国連「死亡率推計に関する機関間グループ」(UN IGME)のデータによると、たしかに1965年の段階では、世界はそのように二分されていた。

しかし、2017年の同データによると、世界の全人口の85%は以前先進国と名付けられた枠の中に入っており、未だに途上国とされる枠の中に入っているのは全人口の6%、たったの13カ国である。

人間は、「世界は分断されている」と思い込む傾向「分断本能」を持っている。

 

質問2 世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?

A 低所得刻  B 中所得国  C 高所得国

 

 

(答えはB)

 

現在(2019年出版段階)では人類の75%が中所得国に暮らしている。

人類は2極化しておらず、厳密には4つの所得レベルで表すことができる。

このことはRPG(ロールプレイングゲーム)に例えるとわかりやすい。

 

レベル1

1日1ドルから。5人の子どもが一家に一つしか無いプラスチックバケツを持ち、裸足で数時間かけて泥水を汲んでくる。帰り道、拾った薪で火を焚き泥が混ざったお粥を食べる。生まれてからこのお粥しか食べたことがない。調理の煙により、1人の子どもがひどい咳の症状がでる。抗生剤もなくひと月後に命を落としてしまう。まさに極度の貧困だ。この暮らしをしている人たちは世界に約10億人いる。

レベル2

レベルアップ。1日の稼ぎは以前の4倍、4ドルになった。最低限の生活費を差し引いてもお金が余る。何使うか、選択肢ができる。子どもたちにサンダル?バケツを増やす?少しお金を貯めて、自転車を買ってしまおうか?灯油ストーブを買えば、子どもたちは薪を拾わず学校にいける。こうして暮らしはだいぶ良くなったが、一度病気になるとレベル1に逆戻りだ。劇的に生活水準を上げるには、収入を今の4倍にしないといけない。工場で働き、「給料」を手にできれば良いのだが。この暮らしをしている人たちは世界で約30億人いる。

レベル3

またまたレベルアップ!仕事を掛け持ち、毎日16時間働き1日の収入が、4倍の16ドルになった。水道管を引き、電力の供給も安定し、子どもが毎日宿題ができるようになった。冷蔵庫によって毎日違うものが食べられるようになった。ある日、バイク事故に遭い、子どもの教育費を前借りし医療費を払った。貯金が残っていたため、レベル2に戻らずに済む。子どもたちは高校に入学し、入学祝いで近くのビーチに初めて日帰り旅行をした。この暮らしをしている人たちは世界で約20億人いる。

レベル4

収入は1日32ドル、もはや裕福な消費者だ。稼ぎに3ドルの誤差があろうと関係がない。学校に12年以上通い、旅行は飛行機、月に1度は外食をし、車も買うことができる。この暮らしをしている人たちは世界で約10億人いる。

 

さて、皆さんはどのレベルにいるだろうか?

 

この本を読める状況にあるあなたは、きっとレベル4の暮らしをしているに違いない。レベル1からレベル4に進むのには何世代もかかることが多い。このように世界には2種類以上の暮らしがある。人類の歴史が始まった頃、誰もがレベル1にいた。最初の10万年間以上は、誰もレベル2に進めなかった。

 

まとめ

・人間はドラマチックな本能のせいで「二項対立」を求めたがる。

・実際、レベルは二種類以上存在する。(世界の所得レベルは4つに分けられる)

・「極端な数字の比較」に注意する。

 

 

2 ネガティブ本能

次のうち、あなたの考えに最も近い選択肢を選んでください。

A 世界はどんどん良くなっている。

B 世界はどんどん悪くなっている。

C 世界は良くなっても、悪くなってもいない。

 

結論、「世界はどんどん悪くなっている」というのはとんでもない勘違い

世界についての暗い話は、明るい話よりもニュースになりやすい。

 

質問3

世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?

A 約2倍になった。

B あまり変わっていない

C 約半分になった

 

 

(答えはC)

 

先程の4つの所得レベルを思い出そう。1800年頃は人類の約85%がレベル1(極度の貧困層)だったのが、そこから現代に至るまで、その数値が一貫して減り続けている。

そして直近20年は、人類史上最も速いスピードで極度の貧困が減っている。

 

質問4

世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?

A 50歳

B 60歳

C 70歳

 

 

(答えはC)

 

ここで著者のハンス・ロスリングが最もお気に入りとする「世界保健チャート」がある。X軸が所得、Y軸が平均寿命とするチャートだ。

このデータによると、過去200年間、世界のすべての国に置いて平均寿命が伸びている。それでも「世界はどんどん悪くなっている」という思考から抜け出せない人もいる。

その思い込みからなかなか抜け出せない原因は「ネガティブ本能」にある。

 

人は物事のポジティブな面よりもネガティブな面に気づきやすい。

この本能を刺激する要因は3つある。

(1) あやふやな過去の記憶

(2) ジャーナリストや活動家による偏った報道

(3) 状況がまだまだ悪いときに、「以前に比べたら良くなっている」言いづらい空気

 

また、もう一つの要因が「深く考えず、なんとなく感じている」ことである。

まだまだ課題は山積だ、我々は安心する訳にはいかない。確かにその通りである。しかし、今までの進歩から目をそむけることは良くない。著者は自身を「可能主義者」であるとしている。

最もタチが悪いのは、希望を失うこと。過去をきちんと学ぶことで、いまがどれだけ恵まれているかに気づくことができる。

 

まとめ

・世界はどんどん良くなっている

・「悪い」と「良くなっている」は両立する。

・悪いニュースが増えても、悪い出来事が増えたとは限らない。

 

 

3 直線本能

近年、注目されているのが「持続可能な〇〇」という名前がついているものだ。持続可能性、すなわち人間の活動が将来にわたって持続できるかどうかは、人口に大きく左右される。

この章のキーワードは、「ひたすら」である。

質問5

15歳未満の子どもは、現在世界に約20億人います。国連の予測によると、2100年に子どもの数は約何人になるでしょう?

A 40億人

B 30億人

C 20億人

 

 

(正解はC)

ある会合でのノルウェーの社会科教師の正解率はたったの9%だったそうだ。

 

農業が誕生した当時の地球の人口は約500万人、それから約1万年間でゆっくり増え続け、1800年頃、約10億人となった。その後、たったの130年間で倍の20億人、それから100年足らずで地球には70億人が住むようになった。これだけを聞くと、人口はとんでもない速度で、しかも「ひたすら」増え続けているように「見える」

これは仕方のないことである。

例えば、あなたに向かって石が飛んできたらどうする?

おそらく無意識に、あなたの目と脳が石の軌道を先読みし、当たりそうなら避けようとする。我々は視覚を頼りに、何らかの軌道を反射的に予測することができる。

これが「直線本能」である。現代ではこの本能は役立たない事が多い。

子どもの身長を例に取る。生まれたときが49cm、半年後には67cmと半年で18cmも伸びた。これからも「ひたすら」同じ速度で伸びると思うだろうか、いや、思わないだろう。我々は身を持って身長が伸びるのには限界があることを知っているからだ。

人口に話を戻すと、現在の世界人口は約76億人、猛スピードで増え続けている。

しかし、国連の専門家によれば、すでにそのスピードは緩やかになりつつあり、今後数十年間は減速する見込みだ。世紀末を迎える頃にはグラフが横ばいになり、人口は100億人から120億人で安定すると見られている。

 

質問6

国連の予測によると、2100年にはいまより人口が40億人増えるとされています。人口が増える最も大きな理由は何でしょう?

A 子ども(15歳未満)が増えるから

B 大人(15歳から74歳)が増えるから

C 後期高齢者(75歳以上)が増えるから

 

 

(正解はB)

人口爆発を抑えるのに最も効果的なのは、「子どもをこれ以上増やさないこと」である。しかしすでに現在、子どもの数は横ばいになっている。

同様なことが1800年頃まで起きていた。女性一人あたりの子どもの数は平均6人だった。6人の子どものうち、平均4人は若くして亡くなり、大人になれるのは2人だった。昔の人は自然と調和しながら「生きていた」のではなく、自然と調和しながら「死んでいった」のだ。

結論、子どもたちが生き延びやすくなると、人口が減る。極度の貧困にある家庭は、労働力としてや、命を落としやすい分、たくさんの子どもがいないとやっていけない。

しかし、子どもの死亡率が下がり、児童労働が必要なくなり、女性が教育を受け、避妊について学び、避妊具を入手できるようになれば、男性も女性も子どもの数を減らし、そのぶん子どもに良い教育を受けさせたいと考えるようになる。

 

まとめ

・今、伸びている傾向がそのまま未来へ続くとは限らない。

・死亡率が下がり、子どもという存在が「労働力」から「財産」へと価値観が変わったとき、人口が抑えられ文化や生活の質が向上する。

 

 

4 恐怖本能

人の頭の中にいちばんすんなり入ってくるのは、物語形式で伝えられる情報だ。そして物語形式の情報は、他の情報に比べてドラマチックに聞こえやすい。

人間には「関心フィルター」なる防御壁のようなものが存在する。これによりある程度の雑音や不要な情報を遮断できる。しかし「恐怖本能」を刺激するものはフィルターを通り抜けやすい。この本能を利用しようとするメディアは未だに多い。

この本能は人類が生き延び、進化するために必要不可欠だった。

あなたがいちばん恐れているものは何だろう?

メディアは大きく3つの恐怖要素を流す。

(1) 身体的な危害 暴力、危険動物、鋭利な刃物、自然の驚異など

(2) 拘束 なにかに閉じ込められたり、誰かの支配下に置かれたり、自由を奪われるなど

(3)  目に見えない有毒物質など

 

質問7

自然災害で毎年無くなる人の数は、過去100年でどう変化したでしょう?

A 2倍以上になった

B あまり変わっていない

C 半分以下になった

 

 

(答えはC)

半分どころか25%になった。一方、人口は同じ時期に50億人増えている。一人あたりに換算すると災害による死亡率は激減し、100年前の6%となった。

ただ、大災害がまさに起きている最中に、「世の中は良くなっている」と言うのは場違いだ。大きな苦しみの中にいる被害者や、家族の気持ちを考えるとき、人類の進歩は一旦忘れるべきである。

戦争と対立

6500万人が犠牲になった第二次世界大戦が終わったとき、「さすがにこれ以上、世界大戦は起きないだろう」と自信を持って言える人はいなかった。しかし現在に至るまで約70年間、超大国同士の戦争が起きなかったのは、人類史上初めてのことだ。

「悪い」と「良くなっている」は両立するのである。

ここで一つの情報だが、テロは例外で年々増加傾向にある。これは看過できない点である。アメリカでは過去20年に3172人がテロで亡くなった。1年あたりの犠牲者が159人という計算になる。一方、同じ20年間に140万人もの人が、飲酒が原因で亡くなった。こちらは年間6万9000人である。これにはさまざまな意見が出るだろう。

 

まとめ

・恐ろしいものには、自然と目がいってしまうことに気づく。

恐怖と危険とは違う。どうせなら危険なことを怖がろう。

・リスクは、「危険度」と「頻度」、言い換えると「質」と「量」の掛け算で決まる。

 

 

5 過大視本能

人間は物事の大きさを判断するのが下手である。これは「過大視本能」が原因だ。

この本能は、大きく2つの勘違いを生む。

1 数字一つ見て「この数字はなんて大きいんだ、小さいんだ」という勘違い。

2 一つの実例を重要視しすぎてしまう勘違い。

例えば、「最低限の暮らしに必要なものが手に入る人は、世界で20%だけ」と考えている人が多い。

しかし実際には80%である。

この本能を抑えるには「比較」「割り算」というテクニックを使う。

 

例:赤ちゃんの死亡人数

「比較」

2016年に赤ちゃんは、420万人死んだ。とても辛く、痛ましい事実。

しかしその前年、2015年には440万人。2014年は、450万人。

1950年は1440万人。これが紛れもない事実である。

 

「割り算」

ある量をもう一つの量で割ると割合がでる。

亡くなった赤ちゃんの数(死亡数)÷生まれた赤ちゃんの数(出生数)=死亡率

1950年には、9700万人の赤ちゃんが生まれ、1440万人が亡くなった。

1440÷9700=15%

つまり、生まれた100人の赤ちゃんのうち、15人が1歳を迎える前に亡くなった。

2016年には、1億4100万人の赤ちゃんが生まれ、420万人が亡くなった。

420÷14100=3%

つまり、生まれた100人の赤ちゃんのうち、3人が1歳を迎える前に亡くなった。

死亡率が15%→3%となったことがわかる。

 

まとめ

・一つしかない数字を見たとき、どの数字と比べるべきか?

・「比較」「割り算」を使い、情報の装飾部分を削ぎ落としてみる。

・1年前、10年前とどう変わっているか?

・合計するとどうなるか?一人あたりはどうなるか?

・制作物には必ず主観が入る。

【話題本】FACT FULNESS(後半)に続く。

 

 

Thank you.

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